特殊な(風がわり)金銀糸・平箔のいろいろ
通常金銀糸は細い芯糸に箔を巻きつけて撚り上げたものがほとんどです。しかしながら、織物や刺繡、組紐等のデザイン性の要求から様々なものが作られてきました。同じような形状でも金銀以外のものや、金銀に手を加えて変化させたりします。撚りの方法を変えたり、芯糸を変えたりもします。同じように見えていても、素材をかえて機能性にすぐれたものもあります。ここで紹介するいくつかの製品や技法はすべて重複するものであり、その多様性は無限になります。当然平箔においても同様の技法があります。おもなものをここで紹介します。
◆表面的に変化をもたせているもの◆
<色金糸>
金属ベースに色の三原色を用いて着色をするわけですから、黄以外の赤や青を多く配合すればカラー着色になります。絵の具を混ぜて色を作るのと同様のことです。
(写真左側4本は通常光沢の色金糸、右側の1本は錆の色金糸です)
<錆金糸>
金銀糸でありながら、あえてその光沢を必要としないものもあります。着色工程の最終に表面に錆コートを施します。
(写真左側3本は和紙タイプの錆金糸、右側の2本はフィルムタイプの錆色金糸です)
<古代金糸>
綺麗ないろばかりが金銀糸ではありません。着色の時あえて黒っぽく濁った色を混ぜて、古代色にすることもあります。
(写真左側2本はフィルムタイプの錆の四掛、3本目は同じくフィルムタイプの光の四掛、右端は和紙タイプの光の一掛です)
<ラテン金糸>
名称の言われは判らないのですが、着色の時に、何色かの色を塗り分けます。手作業もあれば、判型を用いて機械で着色することもあります。使用する色により表情に変化が現れます。
(版型を用いて多色刷りされたものです)
<生金糸>
透明のポリエステルフィルムをそのまま利用します。透明ですから芯糸の染色技法がそのまま表現されます。
<パスター砂子金糸>
ポリエステルフィルムに砂子状の型版を用い接着剤をぬります。それから転写用の金属フィルムと合わせ、砂子状に光るフィルムを作ります。透明の部分からは芯糸の色が見え、金銀の光沢が砂子に見えます。
(カラーに見えているのは、芯糸のレーヨンの部分です)
<漆金糸(色ラッカー金糸)>
色漆を用いて作ります。和紙をベースとして使います。漆の中に顔料を混ぜ、本金糸と同じようにつくります。古くから作られています。金銀の光沢はありませんが、形状は金銀糸と同じです。色糸では出ない光沢とボリュウムがあります。漆の上に金の砂子を転写し、金砂子状の漆金糸もあります。(写真の左側3本は色漆に金の砂子を転写したもの、右側の1本は黒漆の無地です)
同様に色ラッカーを用いて金糸をつくることもあります。ラッカーの場合はフィルムに着色する事もあります。
(写真はフィルムタイプのものに色ラッカーを着色し、その上に金の砂子を転写したものです)
<焼き金糸>
引箔のところでも紹介しましたが、銀を押し上げたベースのものに硫黄分を含んだ布や紙を押し当て、アイロンで熱を加えて変色させます。その分量や熱加減で色々な変化をもたせた焼き箔ができあがります。
◆芯糸や技法で変化をもたせているもの
<紬金糸>
芯糸に絹や綿の紬の糸を使用します。手紡糸された糸は細い部分や、綿のようにふわっと膨らんだ部分があります。これらを芯糸に使用しますと、細いところは撚り口がつまり、膨れたぶぶんでは撚り口に大きな隙間が生まれます。芯糸のランダムな形状がそのまま生かされ、紬の着物のように少し洒落たものになります。
<芯糸のない金糸>
金銀糸は何か対象物に箔を撚ること製品に仕上がります。しかし近年になり少しでも軽いものが重宝されるようになってきました。そこで出来たのが金銀糸の重量の約半分を占める芯糸を省くということです。芯糸がないので少しギザギザとした表面になります。
<蛇腹撚り>
箔を芯糸に撚り上げるとき、通常は隙間を開けずに撚りますが、機械の巻上げ速度を速めたり、箔の巾を細くしたりして一定の隙間をつくります。芯糸の色や素材が箔の隙間から現れます。芯糸の代わりに平箔を用いることもあります。平箔を用いた場合、箔は平箔の形状に影響を受け、角ばった金糸になります。
<ハート撚り>
芯糸にかべ撚りさせたものを使用します。かべ撚りとは太い糸と細い糸を用いた特殊な糸です。細い糸に多くの下撚りをかけておき、太い糸を合わせるときに逆回転で撚りもどします。そうすることにより、太い糸は細い糸の外側を螺旋階段のように巻きついていきます。このゴツゴツした状態の上に箔を撚ると、のこぎりの刃のようにギザギザとした金糸になります。