引箔・模様箔の技法あれこれ
西陣織の帯地において、引箔の存在は欠かすことの出来ない重要なものです。先染め糸の織物が中心の西陣織にとって、引箔で表現できるデザインは魅力的なものであり、そのデザインを取り入れる感性はさまざまな分野に及びます。
漆芸(蒔絵細工、螺鈿細工等)、陶芸、截金細工、磁器、ガラス工芸、七宝焼、日本画、洋画、ちぎり絵、あらゆるものに意匠性を求め、薄く加工できるものすべてに素材性を求め作られてきました。
一般的には目止めした箔原紙をベースに色漆やラッカーなどで彩色し、この上に金銀箔で模様をつけたり、箔原紙に金銀を押上げたものや蒸着で金銀を転写したものをベースに、着色、加熱、箔などによって模様表現をしたものが基本的なものです。それらを応用し、あらゆる可能性を追求し、駆使されてきました。品種は無数にあり、企業秘密に属するものが多く、ネーミングは業者によりさまざまです。
◆道具類◆
◆一般的な技法◆
<焼箔>
銀が硫化して変色する性質を利用したもので、硫黄分を含んだ紙や布をあてアイロンで熱を加えます。硫黄の分量や熱のかけ方で金・赤・青・黒の四色を基本とした色が得られます。
写真は左から、押し上げの銀無地→淡く焼き上げたもの→濃く焼き上げたものです。
<砂子箔・切箔>
金箔原紙の上に色漆や塗料などで直接彩色し、表面に接着剤をのせます。箔片を目の細かな篩(ふるい)に入れ筆などでかきおとし模様をつけます。
この応用で篩をもちいず、さまざまな色の箔片を竹のピンセットで手早く押し散らすなどの方法もあります。
<もみ箔>
紙あるいは金銀のベースを手で揉み、シワを利用して模様をつくります。揉んだあと展ばし、これをベースに着色、砂子、切箔などで模様をつけます。
<貼り絵箔(ちぎり絵箔)>
箔紙のうえに、貝(螺鈿)、べっ甲、木の皮、コルクなどで模様を描いたり、加飾したりします。ギロチン式箔裁断機で切断できるものであれば、どんなものでも貼り付けて模様をつくることができます。
<絵箔>
紙あるいは箔の上に漆やラッカーで直に絵柄を描き、細く裁断したあともとの絵のとおりに織り込みます。織り上がった時のデザインを計算し、タテ・ヨコの比率を扁平にしなければいけません。
<墨流し・油滴>
水面に適宜の色素を流し、流体模様を現出させます。ころよい好機を見定めて、特別に製紙された和紙を水面にのせます。色素が完全に浸透したあと水面から引き上げ、水分を乾燥させてから強化コーティングします。模様の継ぎ目が出来ないよう長尺の紙に作業しなければなりません。
模様箔は単独で柄を表現するものではなく、織物の柄を効果的にするための脇役でありながら、その存在感を積極的に提供するという役目をもつものです。また箔や塗料を何層に重ねても、どんな絵模様であっても、薄く、柔軟性があり、織物の風合いを損ねることなく、しかも深み(立体感)が求められます。
最近では印刷技術や転写技術が発達してきています。それらを活用し従来の技法も組み入れ斬新なものが多く出来ています。