紛(マガイ)という言葉の意味について
金銀糸の業界において「紛」という言葉が多く出てきます。本来その意味は「本物に似せて作られた偽りの物」ということです。現在でも「本紛」「新紛」「ソフト紛」など堂々と偽物であると表記して取引がなされています。
言い訳になるかもしれませんが、金糸の原点は「本金」であり、それ以外のものはすべて似せて作られたものである、という意味が込められているのです。
人々の金銀の輝きに対する憧憬は永遠のものであり、富と権威の象徴として今日でも不変なのです。中でも「本金」は非常に高価なものであり、多くの人がそれを使用したものを手に入れることは出来ません。そこで創意工夫されて出来たものが「紛」ものなのです。
「本紛」は銀を素材とし、それをいぶして金色にしたものです。その製造工程は本金の製品をつくるのと変わりなく、高度な技術が要求されます。江戸時代には唐箔といわれていました。現在では中金箔の名で取引されています。さらに銀箔の特性を生かし、「焼箔」と称される変化に富んだ色をかもし出すことも出来ます。もちろん着色加工により多様な色の変化をつくることができます。
「ソフト紛」は、近代の製造技術によるものです。ポリエステルフィルムに金属を真空蒸着させたものです。この製法が現在もっとも広く普及し、従来のものと比較して柔らかく、軽く、強く、また保存性にもすぐれています。金銀の製品を大量につくることを可能にした革新的な製品です。
「新紛」は、それまで箔を一枚ずつ和紙に貼り付けていたものを、「ソフト紛」の技術を応用し、和紙に金属を真空蒸着することに成功した製品です。
(ソフト紛・新紛は尾池工業株式会社の所有する登録商標ですが、当組合員はその許諾を受けて使用しています。)
これら新製品は業界の発展に著しく寄与しました。さらにその開発は製造の過程における技術革新に大きな影響を与えています。着色工程、貼合せ工程、撚糸工程などすべてに及んでいます。
われわれの業界において「紛」という言葉は「にせもの」という意味ではなく、業界発展の礎となり、広く世の中に金銀の輝きを享受していただくための「新製品」であると思っています。伝統的な織物や、高級な織物の中にも、その特性を活かした製品が多く使用されています。そこのところをご理解いただきたいと思います。