近代的な製造技術<真空蒸着>
昭和30年京都市工芸指導所(現京都市工業研究試験所)において真空蒸着法が公開されました。真空蒸着法とは、真空にしたタンク内で金属を高温で溶解蒸発させ、その金属原子を紙、布、プラスチックフィルム、レンズ、ガラス等々にあてて金属被膜をつくらせるという方法です。
翌31年その実用化の試みが始まります。走行するフィルムに連続真空蒸着を行う試みです。さまざまな難題を試行錯誤の末乗り越え、またポリエステルフィルムとの出合いがあり、昭和32年実用化へ進んでいきます。当初ポリエステルフィルムは輸入品しかなく、高価なものでした。その後、国産の金糸用蒸着フィルムが生産されるようになりました。
国産蒸着フィルムの開発は、塗料メーカーを刺激し、着色剤(合成塗料及び接着剤)の研究を促し、密着度の高い堅牢な塗膜を形成するものが次々と市販されるようになりました。ポリエステルフィルムという新素材の登場が、真空蒸着への扉を開き、これにともなう新しい塗料、接着剤の出現がフィルム製金銀糸を安定なものとし、広範囲に及ぶ用途への歩みを助長することになったといえます。
真空蒸着法は従来の湿式メッキ法では出来なかった薄膜がえられ、しかも廃液はまったくなく空気の排気だけという、完全にクリーンなドライメッキ法で、応用範囲は金銀糸など装飾用のほか光学、農業、建業、電気などあらゆる分野に及んでいます。
(参考資料 京都金銀糸平箔史・尾池工業125年史)
◆真空蒸着とは◆
鍋に水を沸かすと100℃で沸騰し、水蒸気を発生します。この上に冷たいガラスをもってくると、表面に水滴が付着し、透明な水の膜ができます。また地上では100℃で沸騰する水も、富士山頂では80℃で沸騰します。この二つの現象を組み合わせたものが真空蒸着です。
真空の利点は蒸発をしやすくするためだけではなく、酸化、窒化等の反応が起こらず、純金属の被膜が出来るのです。